鋳金師として活躍中のOB松本育祥さんが、第66回東日本工芸展で東京都知事賞を受賞しました。
誠におめでとうございます!
松本さんには、本校中3の職業体験でもご協力いただいています。
2026年10月28日~11月1日に日本橋三越本店で展示会が開催されていました。
松本さんより
11月1日まで日本橋三越にて開催されていた「第66回東日本工芸展-紡ぐ創造-」において、最高賞となる東京都知事賞を受賞させていただきました、2000年度卒業生の松本育祥(やすよし)です。
展示会の母体となる公益社団法人日本工芸会は、1950(昭和25)年に制定された文化財保護法に基づき、無形文化財の保護育成と伝統工芸技術の保存・活用を目的として設立された団体です。日本の工芸技術の習得・継承を基盤とし、さらなる技術の発展や、それぞれの表現の可能性を探ることを目的に、さまざまな活動を行っています。
数ある日本工芸会の活動のなかで、今回の展示は、東日本支部(関東甲信越から北海道まで)の地域に住む作家であれば、どなたでも出品できる公募展です。
作品は、生業としている金属の鋳造技法によって形を作り上げています。原型をもとに砂の鋳型を作り、約1,200℃に溶かした銅合金を勢いよく流し込むことで、厚さ約3mmの器が出来上がります。表面の荒れや、表層に浮き上がりやすい鉛など、後の工程で発色を妨げる金属を多く含む層を削り落とし、さらに傷が残らないように時間をかけて丹念に磨き上げます。
そして、磨き上げた作品を松の炭を使い、融点に近い高温で焼くことで酸化銅(Ⅰ)を生成させ、赤く発色させていきます。焼成時のわずかな温度のずれで色がほとんど付かなかったり、1か月以上かけて磨き上げた作品が目の前で崩れ落ちたりと、何度も失敗を重ねながら習得した技法です。習得したとはいえ、まだまだ確実で安定した仕上がりには至っていません。そのため、大きな作品を焼く際には、緊張感のなか、炭火に張り付くようにして温度やタイミングを調整しています。
赤い色を引き出しても、色上げはまだ完成ではありません。焼成によって荒れた表面を再び丁寧に研ぎ上げ、硫酸銅(Ⅱ)五水和物と緑青の溶液で煮込むことで、銅の地が残っている部分に酸化・硫化反応を起こして黒く変化させます。そうすることで、酸化銅の赤を引き立たせ、最終的な色合いが完成します。この溶液で煮込む工程は「煮色仕上げ」と呼ばれる古くから伝わる技法です。色の変化をもたらすだけでなく、酸化・硫化反応を十分に進めることで、完成後の変色を抑える効果もあります。
今でこそ、技法のなかで活用されている現象を科学的に把握することができますが、先人たちは何世代にもわたって経験を重ね、技を磨き、伝承してきました。煮色仕上げの際には、表面に浮かぶ被膜が反応を妨げたり、色ムラの原因になったりするため、大根おろしの汁を使って何度も洗い流しては煮込むことを繰り返します。こうした工夫も、長い年月をかけて受け継がれてきたものです。もし、その伝承が一度でも途絶えてしまえば、後の人々がどれだけ研究を重ねても、大根おろしを使うという発想にたどり着けない可能性もあるのではないかと感じます。そうした細かな部分にこそ、技術を伝承していくことの大切さがあるのかもしれません。
今後も可能な限り、作家として制作を続けていくつもりです。国内での展示会に加え、海外の美術館への作品収蔵のお話などもいただいており、もしかすると、思いがけない形で自分の作品をご覧いただく機会が訪れるかもしれません。そんなときには、「自分の先輩(あるいは後輩)が、何かやっているんだなぁ」と気づいていただけましたら幸いです。


